instagram

大黒健嗣さん

地域の子供たちの姿も描かれた「高円寺マシタ」(※1)の通路

地域の子供たちの姿も描かれた「高円寺マシタ」(※1)の通路

高円寺を拠点にアートで地域をつなぐ

高円寺を拠点に街のプロデューサーとして活躍する、アートディレクターの大黒健嗣(だいこく けんじ)さん。2016(平成28)年にオープンしたBnA HOTEL Koenjiの創業メンバーでもある。同ホテルは、泊まれるアートスペースとして国内外から話題を呼び、秋葉原、日本橋、京都にも展開。宿泊客の多くは海外からの旅行者だという。
2024(令和6)年現在もホテル運営に携わっているが、活動の場はそれだけではない。壁画プロジェクト「Mural City Project Koenji」や「みんなのまちアート実験室」を主宰するなど、さまざまな形で地域を盛り上げている。その活動について、大黒さんに話を伺った。

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 文化・雑学>アートスポット・古書店>BnA HOTEL Koenji

バーにもなるBnA HOTEL Koenjiのフロントデスクに立つ大黒さん

バーにもなるBnA HOTEL Koenjiのフロントデスクに立つ大黒さん

「泊まれるアート」BnA HOTEL Koenjiを開業

大黒さんは青森県八戸市出身。高校生の頃に気になっていたキーワード「現代美術」と「冒険家」を胸に、慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)へ進学。卒業後は、やりたいことを模索しつつ建設現場で2年働いた後、高円寺のライブハウス「高円寺HIGH」で働き始めた。それが大黒さんの高円寺ライフのスタートとなった。
同じビルでギャラリー&カフェ「AMP cafe」がオープンする際に、店長兼アートディレクターに就任。「“35歳になったら冒険家になる”と決めて働き始めました。忙しかったですが、店長として店を背負っていると、周りの大人から一人前として扱われる。おかげで自信もついたし、いろいろな人とつながりができました」と大黒さん。
2015(平成27)年には、さまざまな業種から集まった4人が共同代表となる会社を立ち上げ、翌年、「泊まれるアート」BnA HOTEL Koenjiをオープンした。

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 文化・雑学>アートスポット・古書店>AMP cafe

高円寺駅北口から徒歩約1分。ホテル入り口のポップなカラーが目を引く

高円寺駅北口から徒歩約1分。ホテル入り口のポップなカラーが目を引く

部屋ごとに違うアートに包まれて眠ることができる

部屋ごとに違うアートに包まれて眠ることができる

壁画プロジェクトで街をミュージアムに

BnA HOTEL Koenjiのコンセプトは、宿泊客に近隣のカフェやレストラン、銭湯などを含めた高円寺の街全体を楽しんでもらおうというもの。その発想から生まれたプロジェクトが、高円寺の街をミューラルアート(巨大壁画)でストリート型アートミュージアムにしようという取り組み「Mural City Project Koenji」だ。こうした試みは、海外では例があるが日本ではほとんど見られないのだという。
2016(平成28)年のスタートから2024(令和6)年現在まで、アーティストたちによってビルの壁面や通り沿いの塀などに描かれた壁画は10カ所ほど。このプロジェクトの代表でアートディレクターを務める大黒さんは、「泊まりに来た人がカフェに行ったり壁画を見たり、街とつながっていくことで場所の価値が高まっていく」と話す。

▼関連情報
高円寺壁画都市計画/ミューラルシティプロジェクト 公式インスタグラム(外部リンク)

不思議な立体感の高円寺南4丁目のYSビルの壁画

不思議な立体感の高円寺南4丁目のYSビルの壁画

ラーメン店「麺屋かむい」の壁画は明るくカラフル

ラーメン店「麺屋かむい」の壁画は明るくカラフル

フリーを経て会社設立、地域と関わる活動へ

2019(令和元)年の秋、36歳の誕生日の前日に大黒さんは会社を離れフリーになった。「予定通り35歳で冒険家になりました(笑)。今は冒険家として、高円寺で冒険しています」。フリーになってからほどなく、世間はコロナ禍に。「コロナ禍でみんなが動けない時、近隣のお店のオーナーをはじめ、高円寺の人たちから話を聞くことを始めたんです。コロナ禍の後どうするかとか、前からやろうと思っていて実現できていないこととか。ひたすら聞き役になりました」
その後、2021(令和3)年に大黒株式会社を設立。あらためてBnA HOTEL Koenjiの運営とアートディレクションに携わり、そこを高円寺での拠点としながら、地域に関わる活動に注力していく。2023(令和5)年に、アートを通じて高円寺のまちづくりに取り組む団体「みんなのまちアート実験室」を立ち上げ、「100♡KOENJI」プロジェクトをスタートさせた。

「100♡KOENJI」は「みんなが街に関わるきっかけに」とスタート

「100♡KOENJI」は「みんなが街に関わるきっかけに」とスタート

「地域の記憶に残っていくものを作りたい」

「100♡KOENJI」プロジェクトでは、2023(令和5)年9月から翌年3月にかけて、「高円寺マシタ」と「高架下空き倉庫」(※2)で3部構成のイベントを開催。
第1弾「100♡KOENJI まちに絵を描こう 楽書きマシタ!」には多くの人々が参加し、「高円寺マシタ」の高架下通路床は落書きでいっぱいに。第2弾は「高架下空き倉庫」で「オープンフォーラム 100♡KOENJI まちづくりアート会議」を開催。高円寺に関わるいろいろな立場の人の意見を交換する場を作った。そして、第3弾は「everyone's mural」。人通りが多いパブリックな場所で、高架下通路床にアート作品を描いた。さらにその完成お披露目イベントは、DJや阿波踊りの特別公演も交えて、にぎやかに行われた。
「地域の子供たちに寝転んでもらってその輪郭線を描き、床画に取り込んでいます。記憶として地域に残っていくものを作りたかった」と大黒さん。

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 文化・雑学>アートスポット・古書店>高架下空き倉庫

「楽書きマシタ!」Takaomi Yoshidaさんのライブペインティング

「楽書きマシタ!」Takaomi Yoshidaさんのライブペインティング

大勢の子供や大人がチョークで「楽書き」を楽しんだ

大勢の子供や大人がチョークで「楽書き」を楽しんだ

地域コミュニティーによる経済圏を作りたい

今後の抱負を伺うと、「高円寺で、地域コミュニティーによる経済圏を作りたいんです。地域の課題をプロジェクトとして解決していくことで、街の経済が回るように。高円寺のことばかり話していますが、ここに来て働き始めた時が僕の人生のターニングポイント。高円寺に出会って、高円寺に魂がくっついちゃった」と笑う。大黒さんと高円寺の街のこれからに注目していきたい。

さまざまな意見が飛び出したトークセッション(まちづくりアート会議)

さまざまな意見が飛び出したトークセッション(まちづくりアート会議)

ミニライブやキッチンカーもありお祭りのよう(同上)

ミニライブやキッチンカーもありお祭りのよう(同上)

取材を終えて

多才で多彩な顔を持つ大黒さん。何度か話に出てきた、まちづくりが地域経済として成り立つことが大事、という大黒さんの考え方に納得。取材後に高円寺を歩くと、街の見え方が変わったような面白さがあった。

大黒健嗣さん プロフィール

1983年青森県八戸市生まれ。慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)卒業。ライブハウス、カフェなどで働いた後、2016年、高円寺にBnA HOTEL Koenjiを開業。同年、壁画プロジェクト「Mural City Project Koenji」を始動。2021年に大黒株式会社を設立。BnA HOTEL Koenjiの運営の傍ら「みんなのまちアート実験室」代表として「高円寺マシタ」のイベントなどをプロデュース。

※1 「高円寺マシタ」:2023(令和5)年に株式会社ジェイアール東日本都市開発が開業した、高円寺駅の高架下にある、店舗とパブリックスペースで構成された施設

※2 「高架下空き倉庫」:株式会社ジェイアール東日本都市開発が提供する、高円寺ー阿佐ケ谷駅間の高架下の貸しスペース。2019(令和元)年から地域の人たちと協力した取り組みに使用されている

DATA

  • 取材:仲町みどり
  • 撮影:仲町みどり
    取材日:2024年07月16日
  • 掲載日:2024年09月23日