2024(令和6)年11月23日、「日本野鳥の会東京」(※1)主催の公園巡り「柏の宮・塚山・三井の森公園で秋散歩」に参加し、街なかの鳥を探しながら、杉並区内南部にある三つの公園を散策した。「日本野鳥の会東京」は月例の探鳥会のほか、公園巡りも定期的に開催しており、今回のイベントもその一環である。野鳥の会会員だけでなく一般参加も可能だ。
当日は9時30分に京王井の頭線浜田山駅南口にある杉並区立浜田山公園に集合。都内をはじめ神奈川県川崎市など多方面から、会員を中心に60名ほどが参加しており、区内の小学校に通う児童と保護者の姿もあった。
最初に「日本野鳥の会東京」副代表・糸嶺篤人氏と同幹事・西村眞一氏らスタッフから、コースの解説などを伺って出発した。
浜田山公園を出て、マンション沿いのケヤキ並木道を南に向かって進む。落ち葉を踏む音に心弾ませていると、「チー」というメジロの鳴き声が聞こえてきた。スタート地点から徒歩10分ほどで、最初の目的地である杉並区立柏の宮公園に到着。広々とした草地広場では、澄み渡った秋空の下、複数の親子がボール遊びなどをしていた。
柏の宮公園は、2004(平成16)年、旧日本興業銀行のグラウンド跡地に開園。約5万㎡の敷地に、草地広場、水生生物の池、田んぼなどがあるほか、周辺に防災樹林帯を配し災害にも備えている。糸嶺氏は「明るい原っぱ、うっそうとした林、田んぼ、池など、さまざまな自然が残り、それぞれ違う環境を具現化しています。だからこそ、多様な植物や虫、鳥が生きている。ヒヨドリ、キジバト、スズメなどが常連です」と語る。
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公園内にある茶室「林丘亭(りんきゅうてい)」の周りではウグイスの地鳴き(※2)が聞けた。初めはうまく聞き取れなかったが、慣れてくると「チャッ、チャッ」という元気な声が聞き取れるようになるのがうれしい。糸嶺氏いわく「冬のウグイスは、やぶが茂ったようなところにすんでいます。このやぶがあるのも柏の宮公園の特徴です」
公園の東側には池があり、西村氏が「下見に来た時は、ここにカワセミがいたんだよ」と話す。この日は池のそばには鳥がいなかったが、少し先の大きな柿の木に鳥がいるのを参加者が発見。木のてっぺんに残った実をシジュウカラがついばんでいるのが見えた。「シジュウカラが柿を食べるのは珍しい。一方、メジロやウグイスは花の蜜などが好きなのですが、子育て中は虫を食べることもあります」と女性スタッフが話す。
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柏の宮公園から東に向かうと鎌倉街道に出る。神田川に架かる鎌倉橋を渡ると、右手に杉並区立塚山公園の高い木々が見えた。
塚山公園は、縄文時代中期の遺跡が発見された場所にできた公園で、縄文時代の復元住居が立つ「敷石広場」や、水辺の植物が観察できる池のある「水辺の広場」など見どころが多い。
管理棟の1階には遺跡展示室があり、出土された土器や資料がわかりやすい解説とともに陳列されている。また、広場には縄文土器をかたどった椅子やごみ箱もあり、縄文時代が身近に感じられる楽しい工夫がされている。
塚山公園は遺跡だけでなく、アカマツやコナラなどの樹林や希少植物の保護にも力を注いでいる。
ケヤキの大木から葉のついた小枝が風に乗って舞い降りてきた。「ケヤキは枝先から枯れて、小枝が空を舞うんですよ。カエデやドングリのように実が独立して落ちず、実が小枝の先にくっついているので枯れ葉ごと木を離れるんです」と糸嶺氏が言う。ケヤキの実を好物とする鳥は、アトリやカワラヒワだ。
この樹林は野鳥の保護区にもなっていて、コゲラやモズなどたくさんの鳥もやってくる。「鳥を探しているとそこに生きている植物や虫のことも重層的に見えてくる。歴史的に地形的に想像してみると、昔の人間の様子も見えてきますね」と、糸嶺氏が探鳥の醍醐味(だいごみ)を語ってくれた。
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塚山公園のそばを流れる神田川も野鳥の宝庫だ。川底に茂るオオカナダモ(水生植物)がゆらゆらと揺れ、虫たちの寝床になっている。「川にいる鳥は川に発生する虫が好きだから川にいる。それぞれの鳥は食べ物ですみ分けています」と糸嶺氏。黄葉を映す川面をカルガモの群れがスイスイと進み、時々頭を水中に沈めて食事をする様子が見られた。そこに滑空してきたコサギとカワウも、餌にありつけたようだ。
鎌倉橋を通っている時には、「キセキレイがいるよ!」という声が響き、参加者の多くが橋の上に集まった。見つけた人がキセキレイのいる場所を細かく説明する。「あっ、いたいた」と双眼鏡をのぞく人々。青空の下、探鳥を目的に集まったメンバーにキセキレイが温かい連帯をもたらした。
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神田川の堂ノ下橋を渡り、最後の観察スポットである杉並区立三井の森公園へ向かう。
三井の森公園の開園は2010(平成22)年4月で、三つの公園で一番新しい。ほとんど人の手が入らず保存されてきた貴重な樹林が今も残り、自然そのものの中を散策する心地良さを味わうことができる。
北風が強い日だったが、公園に入ると風が止まったように穏やかに感じられた。「北風は森の高い枝を渡っていきます。木々のおかげで地面に近い私たちに強い風は届かない」という糸嶺氏の言葉に納得する。
この公園では、高い木の枝に止まるコゲラが参加者の注目を集めた。「どこどこ?」という声があちこちから上がり、見つけられない人もいた。「鳥の生き残るすべは、餌にする虫からいかに見つからないか。身を隠して、そうっと近づく」というのも面白い。
公園内を歩いていると、赤い実がなる植物が目に付いた。ノイバラ、イイギリなどの赤い実は鳥の大好物だ。なるほど、実を餌にするヒヨドリの声があちこちから聞こえてくる。日本ではよく見かけるヒヨドリだが、極東に生息する鳥なので、海外から来た人は珍しがるそうだ。
カラスも元気よく鳴いていた。「カラスには2種類あって、くちばしが太いハシブトガラスはカアカアと鳴く、くちばしが細いハシボソガラスはガアガアと体を振りながら鳴く」との西村氏の解説で、日常に聞くカラスの鳴き声にいろいろな種類があることに合点がいった。
公園巡りは12時ごろに終了。最後に、本日出合った鳥を確認する「鳥合わせ」が糸嶺氏と西村氏によって行われた。メジロ、ウグイス、シジュウカラ、カワラヒワ、キジバト、スズメ、ハシブトガラス、ハシボソガラス、コゲラ、カルガモ、カワウ、コサギ、キセキレイ、ハクセキレイ、ヒヨドリの計15種類の鳥を認めることができたという。
また、それぞれの鳥についての解説もあった。例えば、本日のウグイスの鳴き声は「チャッ、チャッ」という地鳴きだったが、正月ごろになると「ホケ」と鳴き出すそうだ。春の「ホーホケキョ」というさえずりが待ち遠しい。
野鳥を見つけるための方法も二つ教えてもらった。
①耳で探す:鳴き声はもちろん、カサカサというような気配も聞き取る。音のする方向をじっと眺め、何か動いたら凝視し、双眼鏡で見る。
②目で探す:周囲がうるさくて音を聞き取れない場合もある。そういう場所では、まず注意深く見ること。
今後は道を歩くときも、顔を上げ、耳を澄ませて、いろいろな鳥と出合いたいと思った。
今回巡った三つの公園以外にも、区内には都立善福寺川緑地や都立善福寺公園など、さまざまな野鳥が訪れるスポットがある。身近な公園で野鳥観察を楽しんでみてはいかがだろうか?
※1 日本野鳥の会:「野鳥も人も地球のなかま」を合言葉に、野鳥や自然の素晴らしさを伝えながら、自然と人間とが共存する豊かな社会の実現を目指し活動を続けている、中西悟堂氏が創設した自然保護団体。「日本野鳥の会東京」は連携団体の一つ。探鳥会の予定は公式ホームページに掲載されている
https://wbsjt.jimdoweb.com/
※2 地鳴き:繁殖期の鳥のさえずりに対して、平常の鳴き方のこと
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「公園めぐりシリーズ 柏の宮・塚山・三井の森公園で秋散歩」日本野鳥の会東京
『ユリカモメ 10・11月号』日本野鳥の会東京
『すぎなみの地域史 2 高井戸 平成30年度企画展』杉並区立郷土博物館
『杉並区立郷土博物館 常設展示図録』杉並区立郷土博物館
「すぎなみ景観ある区マップ 高井戸・浜田山編」杉並区都市整備部みどり公園課
「ぱーくまっぷ 杉並区公園マップ」杉並区都市整備部みどり公園課