杉並郷土史叢書(※1)の1作目。郷土史家・森泰樹(もり やすじ)氏が「杉並新聞」(※2)に連載していた郷土史話「杉並今昔」を一冊の本にまとめたもの。古文書や論文資料などを調べながらも、基本的には古老から聞いた話をベースに書かれている。序文によると、森氏は区内の古老350名以上を訪ね、区内の旧家70歳以上の方ほとんどの人たちから話を伺い、制作に5年の歳月を費やしたという。
題字は「井荻町の偉人」といわれる内田秀五郎氏による。1974(昭和49)年出版。
▼関連情報
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本書は「杉並の村々」というテーマで、江戸時代の杉並の旧20ヶ村(※3)の各村名のいわれを解説するところから始まる。阿佐ヶ谷村や天沼村など地勢(※4)から名付けられた村は江戸時代以前に開けた村で、高円寺村や松庵村など歴史に関連した名前の村は、改名したか、江戸時代初期以降新しくできた村であることなど、杉並の歴史を知る上で知っておきたい基本事項がわかりやすく説明されている。
また、第十章「名碑望岳の賦(めいひぼうがくのふ)」では、森氏が高円寺のメルセス会修道院の庭内で、戦後行方不明になり幻の碑と称されていた佐久間象山(※5)の代表作「望岳賦」の石碑を偶然に発見した時の様子を知ることができる。
※1 叢書(そうしょ):一連の書物、シリーズのこと
※2 杉並新聞:1948(昭和23)年12月創刊の杉並の地域紙。西東京新聞社が旬刊で発行、1974(昭和49)年休刊。1975(昭和50)年以降は杉並新聞社が旬刊で発行、2006(平成18)年廃刊
※3 杉並の旧20ヶ村:現在の杉並区の区域は江戸時代は武蔵国多摩郡に属し、20村があった。1889(明治22)年の市制・町村制施行により合併され、杉並村、和田堀内村、井荻村、高井戸村の4村となった。合併による4村を旧4村、市制・町村制施行以前の20村を旧20ヶ村と称する
※4 地勢(ちせい):土地、地形、土地全体のあり様
※5 佐久間象山(さくま しょうざん/ぞうざん):江戸時代後期の信州松代藩士。易学、国学、蘭学、砲術を学び、殊に漢詩、歌道に秀で「望岳賦」「桜賦」の名編を残す