杉並区荻窪2丁目に、2016(平成28)年に国の史跡に指定された「荻外荘(近衞文麿旧宅)」がある。日本が日中戦争や太平洋戦争に突入し敗戦を迎えるまでの時代に、1937(昭和12)年から1945(昭和20)年まで政治家・近衞文麿(このえ ふみまろ)が住んだ屋敷である。近衞はこの間3次にわたって内閣を率い、荻外荘は実質的な首相官邸でもあった。「荻窪会談」など昭和初期の政治の転換点となる会議が数多く行われた場所として、日本の政治史上重要な意味を持つ。
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杉並区は、この地を史跡公園として保存活用するため、有識者や区民等で構成する「荻外荘懇談会」と意見交換を重ね、2017(平成29)年に「国指定史跡荻外荘保存活用計画」を策定。2024年12月の開園を目指す「荻外荘復原・整備プロジェクト」を進めており、現地では整備工事が始まっている。2019(令和元)年策定の区資料「(仮称)荻外荘公園整備基本計画」によると、敷地は約6,072㎡(史跡指定部分)、南側の芝生広場(2022(令和4)年7月から閉鎖中)を残して、北側の屋敷部分は新たに当時(1940(昭和15)年~1945(昭和20)年)の姿に復原され、建物内部では「荻窪会談」などが行われた客間や近衞文麿が自決した書斎その他の諸室の公開も予定している(有料予定)。
杉並区都市整備部みどり公園課の担当者は「歴史・建築に関心を持つ区内外の方々の来園を期待している。また、児童・生徒の皆さんの社会科見学にも活用してもらえたら」と話す。
区は荻外荘の東側道路を挟んだ向かいに、荻外荘公園の追加用地として約450㎡を確保し、案内所や展示スペース、カフェなどが併設された公園施設も整備される(2025(令和7)年7月運営開始予定)。取材時から開園まで2年余りの間に、荻窪の閑静な住宅地に点在する「区立大田黒公園」と「区立角川庭園」、そして荻外荘公園の三庭園を結ぶ拠点とすべく、運営方法の検討を進める。
施設整備やサービス・プログラムが具体化するのを楽しみにしながら、杉並区に新たな学習・観光拠点が生まれることを期待したい。
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※復原:文化財の世界では、増改築が行われた建物を改造前の姿に戻すことを「復原」と言い、遺跡で発掘された建物の痕跡等から上部構造を再現する(新築する)場合は「復元」の語を用いる(出典:「復原と復元の違い」奈良文化財研究所)
「(仮称)荻外荘公園基本構想」(杉並区都市整備部まちづくり推進課)
「「荻外荘」と近衞文麿 国史跡指定記念特別展」(杉並区立郷土博物館)
「国指定史跡 荻外荘保存活用計画」(杉並区都市整備部まちづくり推進課)
「(仮称)荻外荘公園整備基本計画」(杉並区都市整備部みどり公園課)
「(仮称)荻外荘公園の追加用地整備基本計画」(杉並区都市整備部みどり公園課)
文化庁 文化遺産オンライン 「荻外荘」
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/299549
「復原と復元の違い」奈良文化財研究所
https://www.nabunken.go.jp/nabunkenblog/2017/01/tanken156.html